昔、息子はぜんぜんしゃべらなかったので、あらゆる習い事が難しかった(続く)
昔、息子はぜんぜんしゃべらなかったので、あらゆる習い事が難しく、それでもなにかに触れさせたいと思った私は、ある絵画教室に息子を連れて行った。そこは広い敷地に大きな家、そして窯つきの立派なアトリエがあって、先生方は三代にわたって画家や陶芸家などアーティストでいらっしゃった。
— 高殿円@『上流階級3』連載開始
(@takadonomadoka) January 27, 2021
息子はまったく絵もうまくないし、うまくなろうとも思っていないようで(笑)通い続けた5年間ひたすら、毎週電車だけを書き続けた。先生もなにもいわず、電車を書く息子の好きにさせてくれた。森のような庭には、背の高い木があり、どうやってむすんだのか、長いロープのブランコがぽつんとあった。
— 高殿円@『上流階級3』連載開始
(@takadonomadoka) January 27, 2021
絵を習いにきている子供たちは、好きな時間にやってきて、好きなときに庭にでて、ブランコに乗る。そうして気が済んだら戻って来てまた絵を描く。息子が気に入っていたのはこのブランコ。5年間、ブランコにのりに通っていたようなものだった。
— 高殿円@『上流階級3』連載開始
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集中力なんて二十分しかもたないんだから、ずっと座らせていてもストレスが溜まるだけ。先生はそう言ってほぼ野放しだったけれど、不思議なことにその教室では争いも起きずブランコのとりあいもなく、みな誰かが戻ってきたら庭へでてゆく。なにも言わないでもたったひとつのブランコを共有していた。
— 高殿円@『上流階級3』連載開始
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そこは芸術家を目指す子供のための塾ではなかった。広い庭とアトリエとたったひとつのブランコがあるだけの住宅地のお教室だった。息子はほかの習い事が忙しくなり辞めてしまったけれど、ふとあのブランコのことを思い出すという。そしてこんなことを話した。「だれもブランコを欲しいといわなかった」
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あれから4年くらいの年月が過ぎ、息子の絵はやっぱりうまくもなく、それでも好きで模写をする。私は「うまいねえ!」と褒めながら、たまに自分からあのお教室のブランコの話を息子にふる。どうしてだれもブランコを欲しがらなかったんだろうね。あんなに大きな庭がないから?木がないから?
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息子が言うには「あのころあそこに通っていた子は、自分のようにうまく話せなかったり、うまく自分の体をコントロールできなかったりした。そういう子は、普通の人よりとても長い準備が必要で、そのためにブランコに乗ることが都合がよかった」
— 高殿円@『上流階級3』連載開始
(@takadonomadoka) January 27, 2021
息子のいわんとしていることはとてもよくわかる。まさに、いまの社会にあったらいいなあと思うものこそ、あのブランコではないか。ブランコにのって揺れているあいだは、ぶつかったら危険だからだれも近寄らない。そうしてその子は一人で準備する。ゆっくり、揺れながら、必要なことを。
— 高殿円@『上流階級3』連載開始
(@takadonomadoka) January 27, 2021
そういう子にとっては、家にブランコがあればいいというわけではない。これから出て行く場所に、学校に、会社に、ブランコがあることが必要だった。
今でもあの庭のブランコは、だれかを乗せて揺れているのだろうか。いまでもふっと乗りたくなるよと息子は言って、今日はブランコの絵を描いた。(終)— 高殿円@『上流階級3』連載開始
(@takadonomadoka) January 27, 2021
真夜中にふわっと書いただけの推敲もしていないつぶやきを、たくさんの方が読んでくださっているようで恐縮です。
キャバレーの話とかhttps://t.co/uq7haFNb9C
国税局の話とかhttps://t.co/IIqBf2F8Xu
百貨店外商部の話とかhttps://t.co/m7kAHX3EJk
書いてるのでよかったら読んでみてください
— 高殿円@『上流階級3』連載開始
(@takadonomadoka) January 28, 2021