「防災インフラの増強は慎め、災害で限界が露呈した」とマスコミが主張 国に頼らず自分で命を守れ
首都を含む多くの都県に「特別警報」が発令され、身近な河川が氾濫する事態を「自分の身に起きうること」と予期していた市民は、どれほどいただろうか。近年、頻発する災害は行政が主導してきた防災対策の限界を示し、市民や企業に発想の転換を迫っている。
2011年の東日本大震災は津波で多数の死傷者を出し、防潮堤などハードに頼る対策の限界を見せつけた。これを教訓に国や自治体は、注意報や警報を迅速に出して住民の命を守る「ソフト防災」を強めた。しかし18年の西日本豪雨でその限界も露呈した。気象庁は「命を守る行動を」と呼び掛けたが、逃げ遅れる住民が多かった。
堤防の増強が議論になるだろうが、公共工事の安易な積み増しは慎むべきだ。台風の強大化や豪雨の頻発は地球温暖化との関連が疑われ、堤防をかさ上げしても水害を防げる保証はない。人口減少が続くなか、費用対効果の面でも疑問が多い。
西日本豪雨を受け、中央防災会議の有識者会議がまとめた報告は、行政主導の対策はハード・ソフト両面で限界があるとし、「自らの命は自ら守る意識を持つべきだ」と発想の転換を促した。
南海トラフ地震や首都直下地震に備えるには、津波の危険地域からの事前移転や木造住宅密集地の解消など地域全体での取り組みが欠かせない。それを進めるにも市民や企業が「わがこと」意識をもつことが大事だ。
個別対策でも同様だ。運輸各社は計画運休により首都圏の公共交通をほぼ全面的に止めた。災害時にいつ、だれが、何をするか定めた「タイムライン」は被害軽減に役立ち、それが定着し始めたのは一歩前進といえる。
もし上陸が平日だったら企業活動や工場の操業にどんな影響が出たか懸念が残る。企業がテレワーク(遠隔勤務)などを真剣に考え、経済活動を維持する工夫も欠かせない。
(編集委員 久保田啓介)
「もう堤防には頼れない」 国頼みの防災から転換を
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO50958710T11C19A0MM8000/