文在寅政権がMeToo運動で内部崩壊する思わぬ事態が進行中 選挙で大敗の可能性が浮上
韓国で若者男性の文在寅(ムン・ジェイン)大統領離れが加速している。女性の職場進出が進む韓国では、米国発祥の「#Me Too」運動が飛び火し、女性によるセクハラ告発が相次いでいる。若い男性はそんな現状を女性が優遇されていると感じ、女性政策に熱心な文政権に批判の矛先を向けているのだ。
■「性暴力? 厳しすぎる」
「『かわいいね』っていっただけで性暴力? それはあんまりじゃないか」
1月中旬。ソウルの学生街で開かれた集会で若い男性が声を上げた。名門私大の西江大で昨春起きた事件のことだ。
ある男子学生が同じクラスメートの女子学生に「うちの女子はみなかわいいよね」と発言したことが問題になり、学生による「対策委員会」が設置された。「言葉による性暴力事件」と認定。昨年末に男子学生に学内活動の制限を勧告した。
「厳しすぎる」との声が上がり、同委も勧告を見直したが、女性が不快に思う言動をとれば社会的な制裁は免れない。事件はそんな韓国社会のいまを象徴する。
男性優位社会が長らく続いた韓国では女性によるセクハラ告発が相次ぐ。昨年12月にはスピードスケート女子ショートトラックの平昌五輪の金メダリスト、沈錫希(シム・ソッキ)選手が男性コーチから性暴力を受けていたと警察に告発。韓国社会に衝撃が走った。
女性を暴力から守る法整備も進む。「女性暴力防止基本法」が昨年12月、国会を通過した。セクハラやストーカー行為など、これまで法的根拠がなく処罰が難しかった行為を「女性暴力被害」と規定。取り締まれるようにする趣旨だ。
こうした動きを20代の男性は「逆差別」と受け止める。「#Me Too」で告発されたのは自分たちより年配の世代だ。上下関係が厳しい文化・芸能、スポーツ界などで年長者が権力をかさにセクハラすることに被害女性が声を上げた。
だが、いまの20代は「男女平等」の価値観で生まれ育った世代だ。むしろ成績優秀な女性が就職でも優位に立ち「女性=弱者」という発想はない。それなのに女性ばかりが守られていると感じる。
それは文政権の支持率にはっきりと表れている。韓国ギャラップによると、2017年5月の政権発足直後は9割近かった19~29歳の支持率は昨夏あたりから急落。昨年12月には不支持が45%と、支持の41%を上回る逆転劇が起きた。同年代の女性は支持が63%と高く、不支持が23%にとどまるのとは対照的だ。
別の世論調査会社リアルメーターの昨年12月の調査でも同じ傾向が出た。同社は「20代男性は文政権の核心支持層から核心不支持層へと変わった」と分析する。
「文政権の政策基調は女性中心で、男性に剥奪感が募っている」。冒頭の集会を主催した市民団体のムン・ソンホ代表は語る。同氏は被害女性の証言だけで男性が有罪になる裁判が増えていると、司法に推定無罪の原則を守るよう求める運動を展開する。反フェミニズム団体ではないが、会員の75%は男性だ。
青年男性の不満に対し、韓国女性団体連合の金炫秀(キム・ヒョンス)氏は「なお現存する女性差別をなくすのが目的で、男性への逆差別ではない」と反論する。
■兵役免除にも不満募る
韓国最高裁が昨年11月、宗教的な信念から兵役を拒否するのは「正当」と判断したことも若い男性には不満だ。徴兵制がある韓国では男性は2年近くを軍で過ごす。女性や宗教的マイノリティーへの兵役免除は、義務を果たさなければならない側からは不公平に映る。
「若者に希望を与えられていないということだ。希望を与えたい」。文氏は10日の新年記者会見で20代男性の支持率低下について、こう語った。
文氏の支持率は昨年12月から50%を下回ったままだ。弾劾された朴槿恵(パク・クネ)前政権の与党だった保守政党は若者の支持を失い、2020年4月の総選挙で受け皿になる可能性は低い。ただ、将来の主役になる若者の怒りを放置すれば、文政権を支える革新陣営の土台が揺らぐ可能性もある。(ソウル支局長 鈴木壮太郎)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO40507830V20C19A1EA1000/
日本経済新聞 2019/1/26 1:31