朝日新聞の天声人語が『悔しさを滲ませながら』韓国大統領選を絶賛。韓国の若者はレベルが高い
(天声人語)韓国に新大統領
2017年5月10日05時00分
長崎県・対馬の約90キロ北西に巨済島(コジェド)という韓国の島がある。朝鮮戦争のさなか、戦火を逃れた北朝鮮の人々の収容所が置かれた。韓国大統領選で勝利宣言をした文在寅(ムンジェイン)氏は、この島へ避難した両親のもとに生を受けた
▼祖父母を北に残し、一家は離散したまま戦後を生きた。自伝『運命』によると、公務員だった父親は南で靴下卸の商いに失敗。母親が鶏卵を売り歩き、練炭を運んで家計を支えた。小学校の保護者会費が払えず、文氏は教室から追われた
▼貧しさに屈せず、大学へ進み、弁護士として名を立てる。盧武鉉(ノムヒョン)元大統領に見込まれ、秘書室長を務めた。盧氏が退任後に命を絶った際は、葬儀を取り仕切っている
▼大統領選は2度目だ。朴槿恵(パククネ)前大統領に敗れた前回は、「職場をつくる大統領になる」とアピールした。今回、雇用に加えて訴えたのは「積弊の清算」。耳慣れない言葉だが、権力の腐敗や財閥支配など積年の弊害を取り払うと訴え、若い層に支持を広げた
▼朴氏の疑惑が発覚した昨秋以降の展開を日本から見て驚くのは、若い世代の政治意識の高さだろう。退陣を求める若者たちが毎週末、いてつく街を埋め尽くした。ソウルの夜に浮かぶろうそくの波は忘れがたい
▼いま世界の関心はもっぱら北朝鮮による挑発に注がれている。だが韓国内の様相はやや異なると聞く。雇用を増やし、賃金を引き上げる。文氏を押し上げたのはそうした姿勢の方だという。幼少期の貧困をへた人らしい、いたわりの政治を見たい。