霊峰・富士山は誰のものか?「無料ではない」登山者に突きつけられる発想の転換・・・
霊峰・富士山の頂上は誰のものか? 日本人の心の山としてあがめられてきた象徴だけに、一見、国有地だと思われがちだが、正解は富士山本宮浅間(せんげん)大社(静岡県富士宮市)の所有地であるという。8合目以上の多くが浅間大社の境内にあり、何十年と争われた裁判でも「私有地化」の判決が示されている。
富士山は県境も明確になっていないが、富士山に限らず、ハイカーに人気の山や国立公園内にも個人や法人の民有地が複雑に入り組むケースが珍しくない。そうした山では環境保護などの協力金名目で入山料を徴収されることがあるが、必ずしも登山客の理解は得られていないようだ。
国内には33カ所の国立公園があるが、全体の約4分の1は「民有地」といわれる。例えば、ミズバショウの群生で知られる尾瀬(群馬県片品村)特別保護区の多くを東京電力が保有している。2011年3月の福島第1原発事故以来、世間の非難にさらされているが、東電が尾瀬一帯で水力発電の建設を進める中、この地の植生保護に「企業の社会的責任」として尽力してきたことはあまり知られていない。至仏山を望む「東電小屋」(冬季閉鎖)は、東電が管理・運営する山小屋としてハイカーらに現在も親しまれている。
日本の環境保護の発祥地としても知られる尾瀬に、かつて入山料の導入が俎上に上がったが、「入山者減につながりかねない」と観光面での打撃に配慮して入山料構想は断念となった経緯がある。そもそも入山料には入山客を規制して、周辺の環境負荷を抑えるという狙いがあり、日本では屋久島(鹿児島県)や白神山地(青森と秋田の県境)などの世界遺産で導入されている。
年齢を問わず登山ブームが広がる中、登山者の自由意思で「入山協力金」という形で徴収する所もある。ここ数年、首都圏のハイカーに人気の「長瀞アルプス」(埼玉県長瀞町)。多くの私有林を抜けて宝登山の山頂に向かう途中、「環境整備協力金」のポストに遭遇する。地権者の一人は「環境保護や山道の維持管理のために協力金という形で負担をお願いしているが、こちらが整備を始める前からハイカーらによって道が作られた」と内情を明かす。
山の地権者は「私有地である山に入るな」とは言わない。なぜなら、「山の公共性」に理解を示しているからだ。一方、100円という廉価な額だが、協力金を徴収する意図を理解できずに素通りするハイカーは少なくないようだ。
「日本百名山」の一つ、標高1377メートルの伊吹山(滋賀県、岐阜県)でも、2015年5月から1人300円の「入山協力金」が本格導入された。ところが、2年目に入ると、協力者数と総額のいずれも激減した。伊吹山は日帰り登山可能な低山のため、登山口周辺にはマイカー利用者への駐車場(1000円)の看板も目立つ。駐車料金に加え、入山の協力金…次々と負担を強いられるためか、一部の登山者から不満が絶えないようだ。
一方、「京都のお寺に拝観料があるように、登山にも入山料が必要」と持論を展開するのは登山家の野口健氏である。神社仏閣を訪れるたびに数百円単位の拝観料を払うことに抵抗しないのに、日本が誇る山岳風景を維持するための入山料・協力金を渋るというのは寄付の精神という点でバランスを欠く。言葉は悪いが、さもしく映る。
「山の日」(8月11日)施行から2年目を迎える中、登山に対する知性や教養、そして「登山は無料ではない」という発想の転換がすべての登山者に突きつけられている。登山を楽しみながら、山の環境問題とどう向き合うのか。入山料を徴収する側も、わずかなお金とはいえ「用途」をはっきりと示すことは最低限のルールといえるだろう。
引用元: ・【社会】霊峰・富士山は誰のものか? 「無料ではない」登山者に突きつけられる発想の転換