米中貿易戦対立の裏で意識高い系の企業が対中投資を加速中 米テスラやドイツは生産拠点を増強
上海近郊にあるテスラの巨大工場「上海ギガファクトリー」
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中国と米中貿易戦争を繰り広げるトランプ米大統領の“思惑”とは裏腹に、多国籍企業による対中投資が増加している。多国籍企業が引き続き成長を続けるには、人口14億人にも上る巨大市場を無視できないという事情がある。英製薬大手アストラゼネカのパスカル・ソリオ最高経営責任者(CEO)は「中国への投資は今後、一段と増やす」と言い切る。
市場供給懸念拭えず
中国への海外直接投資(FDI)は伸び率が鈍化傾向にあるものの、増加基調にあることに変わりはない。中国商務省の調べによると、2019年1~9月期の中国へのFDIは前年同期比で約3%増加した。
米国の中国製品に対する関税賦課で製品価格の上昇が避けられず、多国籍企業の多くがサプライチェーン(供給網)の見直しを余儀なくされている。しかし、米電気自動車(EV)大手のテスラや米小売り大手ウォルマートをはじめ、韓国や日本、欧州の多国籍企業もこぞって中国事業を拡大している。
米ブルッキングス研究所の上級研究員、デイビッド・ドラー氏は「多国籍企業は今後、対中投資を増やす公算が大きい。貿易障壁が生じているうえ、貿易戦争が休戦になっても再び激化する可能性が高い。このため、海外から中国市場に商品や製品などを供給するのはリスクを伴う」と懸念する。
対中投資のうち約75%は中国市場を意識したサービス業や公益事業などへ向かっており、ドラー氏は「貿易戦争により企業は中国市場での基盤強化を加速している」と指摘した。トランプ大統領は8月、ツイッターに「米国企業は中国の代わりとなる拠点の検討を今すぐに開始すべきだ」と投稿したが、トランプ氏の思惑とは正反対の状況になっている実態が浮き彫りになっている。
もっとも、18年の対中FDIの4分の3は香港、英領ヴァージン諸島、ケイマン諸島からの投資で、国際通貨基金(IMF)はこれらの投資について事業活動の実体のない“見せかけ”の投資とみる。こうした投資を除く実質的な投資がどの程度あるのか把握するのは困難を極める。
テスラは上海で量産
しかし、巨大市場を取り込みたい多国籍企業は後を絶たず、中国への積極投資を加速している。米テスラは上海近郊に米国外で初となる巨大工場「上海ギガファクトリー」を建設、将来的には週産3000台を目標に掲げる。リチウムイオン電池製造で世界第2位の韓国LG化学は6月に中国の吉利汽車とのEV用バッテリーの合弁事業会社を設立することで合意したほか、このほど中国事業に約4億3000万ドルの追加投資を決めるなど対中投資を急いでいる。
対中投資を増やす多国籍企業はテスラやLG化学だけではない。米電機大手ゼネラル・エレクトリック(GE)傘下のGEリニューアブルエナジーは洋上風力発電の運営開発センターへ投資。また、ドイツの化学大手BASFは広東省で総額約100億ドルを投じ、化学品の生産拠点を設立する予定だ。米ウォルマートは中国の物流網を改善するため、80億元(約1250億円)を投じる計画だ。
香港の金融サービス会社、ガべカルの調査責任者、アーサー・クローバー氏は「脱中国を進める米政権が、米国の主要企業に対し中国市場から去るように指示しても、企業側はこれを拒絶するだろう。なぜなら中国市場で得られる利益はとても大きいからだ」と指摘した。(ブルームバーグ Bruce Einhorn、Enda Curran)
2019.12.23 07:05 ブルームバーグ
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